景観寺 六十六部宝篋印塔

景観寺(神奈川県高座郡寒川町一之宮1-18-15)に宝篋印塔があります。

景観寺

 
六十六部宝篋印塔
 

「目でみる寒川(*1)」では、この宝篋印塔を次のように説明しています。

念求大徳という景観寺の弟子と称する僧が享保8年~11年(1723~1726)の4年間かけて全国を行脚した時の巡礼帳及び当時の中瀬村の信者たちの信仰の記録などが数冊納めてあります(*8)。
巡礼帳は全国の霊場、寺院を回り各寺に大乗妙典を奉納、その寺の住職印と名前とが記帳してあります。享保12年(1727)六十六か国の霊地巡礼の目的を達成したことから、宝篋印塔を相模国中瀬のこの寺に建立して納めたものといわれています。

この「巡礼帳」すなわち納経帳はご朱印帳のルーツである、という説があります(*2)。

[納経帳の例]

文政4年(1821)六十六部の納経帳
左:寒川神社、右:相模国分寺の納経

出典:古今御朱印研究室 (2)納経帳の登場と広がり(*3)


(注) 江戸時代、六十六部が廻る相模国一之宮は鶴岡八幡宮、という説がある(*4)が、この例では寒川神社を廻っている。

寒川町内では、他に納経帳が確認されていないため、景観寺の宝篋印塔に納められた納経帳が寒川最古の納経帳と思われます。

景観寺には六十六部供養塔(銘文は「六十六部供養佛」)もあります。この供養塔は武州江戸堀の休心という人が立てたものです。(なぜここに立っているのか不明です。) 六十六部供養塔の多くに「仏説無量寿経」の一部「日月清明」の文字が彫られているそうです(*2-a)。この六十六部供養塔にも彫られています。

寛保3年(1743) 六十六部供養塔「左:日月清明」

寒川町内に六十六部供養塔は4基あります(*5)。内2基で「日月清明」が確認できます。

年代所在地日月清明の有無銘文
寛保3年(1743)三月十八景観寺[正面] 六十六部供養佛 天下和順 日月清明 [左側面] 武州江戸堀□□ 寛保三癸亥三月十八□□ 願主 休心 [右側面] □誉□道信 □誉清曇信女
享保3年(1803) 旭橋脇×奉納經日本六十六箇國 陀左□□五右エ門造立
文化14年(1817) 大蔵共同墓地奉納大乗妙典六十六部日本廻國供養 天下和順 日月清明 相州高座郡大蔵邑行者治右衛門
年不明九月十七 寒川神社(神庫右手脇)×□□六十六部供養 □□乗生(正面の一部と右側面はコンクリートでつぶされている)→{明治4年(1871)10月14日付の「太政官布告第538(*7)」の影響か?} (太政官布告第538=六十六部禁止令)

神奈川県内で確認された六十六部供養塔は291基あります(*6)。
景観寺の宝篋印塔は六十六部供養塔に分類されていませんが、六十六部と深く関りを持つ塔です。

[出典]

*1: 「目でみる寒川」寒川町企画課編集 昭和55年(1980)11月1日発行
https://sites.google.com/view/sabookindex/medemiru-samukawa

*2:
(a)「秘められた巡礼・御朱印のルーツの六十六部廻国」京都歴史研究会
http://rekikenkiroku.blog.fc2.com/blog-entry-155.html
(b)古今御朱印覚え書 御朱印の歴史(1)
https://blog.goshuin.net/history_01/

*3: 古今御朱印研究室 (2)納経帳の登場と広がり
https://goshuin.net/history-02/

*4: 香川大学経済論叢 第86巻第2号2013年9月5-42 「日本廻国六十六部と四国遍路―― 浄慶の納経帳から――」稲田道彦
http://shark.lib.kagawa-u.ac.jp/kuir/list/jtitle/%E9%A6%99%E5%B7%9D%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E7%B5%8C%E6%B8%88%E8%AB%96%E5%8F%A2/86/2

*5: 「寒川町史11別編 美術工芸」寒川町編集・発行 平成4年11月1日

*6: 「廻国供養塔データベース 五訂版改」 著者:小嶋 博巳
https://ndsu.repo.nii.ac.jp/index.php?action=repository_view_main_item_detail&item_id=436&item_no=1&page_id=13&block_id=36

*7: 国立国会図書館デジタルコレクション 法令全書 明治4年(1871) 太政官布告第538 [514]コマ220,221
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/787951

太政官布告第538  
 
  
*8: 昭和五十年(1975)に宝篋印塔を移動した際、塔の内部から、こわれた桐の箱に納められた虫喰だらけの大乗妙典が見つかった。(出典:「郷土さむかわ 第14集」p48)

初出:2021.1.11